ビター・スウィート


紙袋3つ。年々確実に多くなる。どさりとリビングに置くと中身がガラガラとなだれ落ちてきた。ゴールド、赤、緑、桃、カッパー・・・。
ウワァ、トリュフセットじゃん、うわあ、手作りじゃんなどと叫びつつ、床に座り込んで喜々と色とりどりの包装をむしりとる。その紙と紐の山を片づけるのはおそらく俺なのだが。
「『一番大好きなティーダ君へ』サンキュウ!・・・『あなたの活躍に期待してます』あんがと、・・・なんじゃこりゃ『今期こそジェクトシュートを』パス!・・・エーと、『今夜11時にエントランスアーチで待っていますめじるしは黄色の花』・・・ごめんなー・・・」
「全部のカードを読みあげる気か」
「声出さないと頭はいんないんだよ」
「・・・明日になるぞ」
甘い匂いが鼻を突いたので見るとラッピングの下の包み紙までむき始めていた。白い歯がパリッと小気味よい音をたてる。まさか全部食う気ではないだろうが。あっという間に目の前で2個平らげた。16、7の伸び盛りはどこかに穴でも開いているんじゃなかろうかという食欲だ。おまけにこいつの場合は太らずに縦にばかり伸びていくらしい。眺めていたら目が合った。おればっか食ってゴメンな、などと悪びれもせずに立ち上がる。
「味見する?」
んーと突き出す口。なにをやっているんだか。軽く額を叩く。
「イテ」
「馬鹿な真似ばかりするな」
「・・・ひょっとしてスネてるッスかあ?」
妬いてる?笑いながら、空き箱を鼻先でふる。
「関心がわかないだけだ」
なんとなく拾い読みしていた雑誌に目を戻す。ずいぶん意味がわかるようになった。だがどうしても目は上滑りしていく。噂、流言、物、物、物・・・。今日の菓子の包み紙のように芳潤なくせに軽い世界。
「おれ愛されてっから、けっこう。それわかんないの、アーロンだけ」
「よく言う」
気配が背中にまわるのを空気で感じる。肩に軽い感触がのってくる。「・・・ほんっと、お約束、きらいだよな」
俺の手から雑誌をつまみあげ取り上げる。
「でもさ、形がないもので愛をはかるって難しいじゃん」
逆さまになった青い目がじっとのぞき込む。
「なんかさ、言葉とか、態度とかも大事だけど、チョコ一個でもさ、選んでお金はらって持っていって、渡してさ、時間とか、思いとかこもるだろ?だから、もらったら、嬉しい。おれはそう。アーロンはどう」
そのまま日溜まりのような笑顔を向ける。

お前はまだ知らない。形の脆さも時間の非情さも。思いに影があることも知らない。
そういうことを知らない世界の固まりがここにある。

目がほんの少し泳いで元に戻る。
「だからアーロンにも一個買った。甘い物苦手なのしってっけど」
なるほど、後ろ手に隠していたのは。声が固い。用心しすぎだ。今さらお前を突き放したりはしない。
「ビター選んだ。くってみる?」
「ああ」
「良かった。くって」
隣でガサガサと紙をやぶき始める。さっさと自分で開けるのがこいつらしい。おまけに、はい、あーんなどとふざけた真似をする。さすがにこれにつきあうには尻のあたりがかゆい。口を閉じたまま黙っていると、つまんねえといいながら・・・自分の口に放り込んだ。うんうまい、おれチョイスうまい、などと、飲み込むのもしゃべるのも一緒くただ。それは俺のものじゃないのか?まったく。
「・・・アーロン、口、あけて」
絡まる舌の上で小さなかけらが溶けていく。やはりそれはひどく、甘くて。
濡れた口をはなして膝の上のお前が、どこかで覚えてきた言葉をそらんじる。
チョコみたいにさ、なめて、とかして、どろどろにしちゃって。

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