だいっきらいだ


最近めきめきと背が伸びだしたティーダの片目に青い痣がある。
「喧嘩か」
ムスッとした表情のままナップザックを乱暴に放り出し、ティーダはその場に座り込む。時々顎をひきしめて、息づかいが不規則になるのは涙をこらえているからだろう。
「クソ親父のせいだ」
アーロンはとぎかけの剣を置く。
「ジェクトがなぜ」
「あいつがいるからこんなことになるんだ」
脇に座って
「なあ、おれ、本当にブリッツうまいと思う?」
上目遣いで斜めから見上げる。こういう時のティーダは7つの時から同じ顔だ。不安を持てあましてすり寄ってくる子供の顔。ある意味、アーロンにとっては苦手な。
「自分のことは自分で一番わかるだろう」
「だって、そう思ってないやつもいてさ、親の七光りみたいに言われてさ、いやだ、もう、おれ」
いやだ、のあたりでとうとう涙がこぼれだす。
「ブリッツやめる」
鼻をすすりあげてこすりながらティーダは震える声で言う。
「ぜったい、やめる」
膝に頭を埋めたまま押し殺した泣き声が聞こえてきた。苦笑しながらアーロンは剣を持ち立ち上がる。
「気のすむまで泣け。俺は向こうへ行く」
「アーロン」
「なんだ」
振り返ると涙でべたべたの顔がじっと見ていた。沈黙のまま、数秒が過ぎ去る。
「お前の自由だ」
ティーダの眉がきゅっとつりあがる。
だだをこねてみせて、誰かに引き留めて欲しいのだ。子供らしい爆発の影に隠れた本心に、我知らずフッと笑い声が漏れた。
「なに笑ってるんだよ」
「ずいぶん簡単に結論を出したと思ってな。ジェクトがこの場にいたら確実に笑うだろうな」
「なに」
「まあいい。”たかがジェクトのことで”投げだすものなら、本当に好きなことではなかったんだろう。なら簡単だ」
今度は振り返らずに歩き出す。
その背に柔らかいものが当たって弾んだ。ソファのクッションらしい。
「だいっきらいだ」


午後の太陽と一緒につむじ風のように飛び込んでくる固まり。顔の痣も一晩でだいぶ薄くなりこぼれるような笑い顔が戻っている。
「オッサン、じゃま!」
バタバタと走りまわり、ボールとナップザックを抱える。
「ブリッツはやめるんじゃなかったのか」
「やめねえよっ」
脇をすりぬけ、ティーダはアーロンに向かってしかめっつらをしながら舌を出す。よほど口惜しかったのだろう。何か言い返してみようかとも思ったが、もうドアは閉められて足音は軽快に遠ざかっていく。

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