| 繭 |
| 灯りのついていない窓にぎょっとした。名前を呼びながら扉を叩く。もし返事が無いなら窓を破ろうかと思案する。だが、ちょっとまっててよう、という子供の声はあんがいしっかりしていて、一気に力が抜ける。それからしばらくゴトゴトという音が続いた。自動扉を手で引き明けようとしているらしいと気づくまで少し時間がかかった。 こじ開けると室内は外と同じようにヒヤリと静まり返っていた。ティーダは体に毛布をぐるぐる巻いていた。端の方が巻ききれていない。 「セントラルヒーティングとまっちゃった」 泣きそうな声で訴える。 「ドアも開かないし、どうしようって思ったんだ。」 しがみつく手が冷え切っていた。 「とにかくきてよ」 毛布の端をひきずりながらティーダはアーロンの手を引いていく。 「スイッチいれなおしたけどぜんぜん動かなくて、元も、ちゃんと、みたんだけど、だめだっけ」 寝室が真っ暗で怖くなったのですこし明るいリビングに来た、そう子供は一息にしゃべりつづける。なるほど、居間の真ん中にクッションや床の敷物を丸くひきよせて、そこにもぐっていたらしい。そばには揚げ菓子の袋から中身がこぼれていた。鳥か小動物の巣のようだ。 確かにスイッチは反応せず、暖房はおろか、灯りもつかない。機械には疎いアーロンも、どうやら全ての機能が止まってしまったのだということだけわかる。 「それを使って誰かに助けてもらおうと考えなかったのか?」 ぼうっと光り続けているテレスフィアを指さす。 「だって」 ティーダはうつむく。 「しらない人、うちにくるし」 「そういう時は、いいんだ」 曇った顔のまま、ティーダは頷く。 難しい綴りがわからないティーダと微妙な言い回しがわからないアーロンと。苦労して番号検索から修理サービスにたどりつく。 修理屋は、朝にうかがいます、と。 「24時間エイギョーってウソだね」 ふうっと子供はため息をつく。 「どこか温かいところにでかけるか」 「へいき」 「体を悪くする」 「いい」 頭を降り続ける。今日だけではなかった。父も母ももういない、空の巣なのに、そこで待っていなければいけないのだと、子供は頑なに思い続けている。 暖をとる毛布をあるだけ持ってくる。ゴソゴソともぐりこんで、えへへ、とティーダは笑う。 「ソーナンしたみたい、おもしろい」 スピラの寒空を思い出す。シンに打ち壊された村で、やはりこんなふうに子供ばかりよせあつめて。震えてすすりなく子供達と同じように自分も疲弊しきり、やるせない気持ちを持てあましながら闇に転がっていた。あの時のことを思い出しながら、熱を逃がさないようにくるみこむ。 冷えた空気が頬をさす。この街の夜に初めて出会ったような気がした。 「おれ、しってる。雪山でソーナンした人って、ゆきにあなあけて、そこでねるんだって」 おれとアーロン、ソーナンシャなんだよお。 子供は腕の中でコロコロと笑う。あながち当たっていなくもない。 眠りについた子供の体温はぼうっと熱く、自分が熱を奪っているような気がしてくる。揺らいでいる街の光が自分をもゆすぶっているようにアーロンは感じる。いなくなった二羽の鳥。空の巣に残されて泣き続ける子供。鳥を殺したのは自分かもしれない。 冷たい街の光はゆれつづけ波の音が遠い記憶をゆらし果てのない循環に身をゆだね。 |
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