眠れない子に

自分の名を呼ぶ声に暗闇から身をもたげると毛布を引きずりながらぐずる子供がぼんやりと灯りの中に浮いていた。ぱたぱたと軽い足音が近づいてきてそのまま胸元に飛び込んできた。ぐしゃぐしゃの鼻こすりつけ、まるで犬の子のようだ。

どうろがまっかでね、みんなにげてて、火事なんだ。そらが花火みたいにきらきらひかってて、雷みたいな音がして。こわいからにげたいんだけど、足いたくて歩けなくて、そのうちすごくけむりがあつくて、いっぱい人がいるんだけどタスケテっていったけどだれも来てくれない。みんなこわくてにげてておかーさあーんってよんだけどおかあさんいなくて、あーろんのこともよんだけど、だれもこなくて、こわくてこわくてこわくて、、痛いし、血、いっぱいでてすごくこわかった。さびしかった。しんじゃうのっておもった。

夢の見る夢は現実だろうか。

『昔そういうことがあったのかもしれない』
『昔?』
『昔大きな戦争があった。ずっと昔のことだもう、二度とおきない』
涙をためた青い眼で子供はうなずく。自分の寝床へかえれと言おうとしたが、子供はずっと懐にささっていて離れない。そっと抱きかかえながら暗闇に目をこらす。

昔、この子供と同じ名前の子供がたった一人でさびしいと泣きながら死んでいったのかもしれない。

のぞきこむともう子供は半分目を閉じていた。金色の柔らかい髪に被われた頭が規則正しく揺れて。軽くて早い子供の鼓動が掌にのっている。



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