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| とびおりてみた |
| きらいなんだ、もやもやしてんの。あんた、胃、痛くなんねっすか?おれだけすか?平気なんだ。だって、全然顔とか態度とか変わんねえし。そうだよな。あんた、いなくなれば、いいんだし。おれの顔みないですむし。 一人でいると考えとまんないから、早々と家飛び出してさ、死ぬうっていうくらい練習でへばって、ギャラリーにかっこいいとこ見せながらお愛想に手ふって。だって、ファンにへこんでるとこ見せるの、反則じゃん?それにみんなではしゃいでるとさ、まあまあ楽しい気分になってくるし。どーせ家に帰ったって真っ暗なだけ。 海の音が聞こえるところまで来たら、真っ暗なはずの家に明かりともってて、足、一瞬とまった。のろのろしてた足、もっと遅くなる。ドア開けたらおそいなって、普通の声。自分、どうだよ。すごくなにか言いたいんだけど、なんにも言えなくて、ああ、って生返事。荷物放り投げて、ソファによっかかってるとぽつぽつとなんか聞こえてきて。ちゃんとやってるっすよ、別になんでもないって。ああ、とかそう、とか答えながら、ああ、うざい。たまんない。言葉出ない。おれ、前、どうやってアーロンとしゃべってたっけ、忘れた。なんだか、口開いたらとんでもないことこぼれそうだし。今、おれさちょうど、水、ふちまでいっぱいのバケツ状態だしさ。 なんでこんなぐちゃぐちゃになるのか、わからない。だって、アーロンのこと、なにも知らない。クソ親父の友達だって言ってるのを信じてきただけだ。子供のころにいろいろ聞いたのかもしれないけど、でも、いつも何もいわないから、それで当たり前、なってたし。それって変だ。でも本当に、そんなこと考えないくらい長く。だっておれ、テンガイコドクだし。母さん死んだら誰もいなかったし。ぬくいとこ、そこしかなかったから。 家の前はすぐ海で、アーロンはよくそこから一つだけの目を細めて、水平線の向こうのすごく遠いところを見ている。今もそうしていて。真っ暗でなんにも見えないくせにさ。チャポチャポ波に窓の明かりゆれて。なんか、寂しくて。そしたら、もしかしたらアーロンって、海の向こうから来たのかな、って、ガキのころ思ってたの、急に思い出して。でかい背中ぼんやり見てたら、今までたまってたもん喉つきあげて。あー、もうだめだって。 気持ちいいか悪いかなんてわかんない。飛び降り自殺の時ってこんなかな。心臓、はねあがってさ。頭の中にぽかっと穴あいて。もみくちゃにして。首ひっつかんで。口、奪って、ぎゅっと抱きついて、思いっきり、体すりつけて。でも、ぜんぜんびくともしねえの。眉だってあがんねえの。石みたいだ。くやしい。 なんで、なんでっておれ、わめきつづける。 おれのこと好きなんだろ、やりたいんだろ。 吐けよ。なんで黙ってんだよ。 なんでなんでなんにも言わないんだよ。 なんか言えよ。 わあわあ言って、頭と拳ぶつけて。 ずうっとそうやってる間、アーロン黙ってて。 息吐けなくなったころ、でっかい手、降りてきて、体離されて。間違ってねえったら。だって。なんでそんな顔すんだよ。オヤジなんか関係ないって。なんで。おれのこと、見てるって、ずっと見てるっていったじゃん。約束、破る気かよ。 それでも、アーロン、厳しい顔のまんまで、なんか、力ぬけて・・・もういいや。ガキがなにわめいたって。 アーロン置いて、とぼとぼと一人で戻って。自分の部屋入って、布団の上に転がって。だまって目閉じてるとまぶたの裏、じんじん痛んだ。なんかもう、情けないだけ。飛び降り失敗。おれ、死んじゃった。助けろ、ばか。 |
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