これが読まれているということは
私(宝条)がすでに肉体の死を迎えているということである。

もっとも死の定義は曖昧だ。

癌細胞は個の死をもたらすが、細胞そのものは分裂、増殖を繰り返し生き続ける。
物質としての死を越えて、思想はミームとして生き続けることができる。

今は心肺機能の停止信号を受けるとアップロードを開始するようにセットした。
 
ここは電子的に記録された私の片鱗である。
ジェノバ細胞について探求し、解析するためのプログラムである。

私は真実に到達する事ができなかった。
セフィロスー彼は『何』になろうとしていたのか?
なぜクラウド・ストライフでなければならなかったのか?
漠然とした仮説をたてながらも、それを立証する時間は無い。
残されたわずかな時間で私の代わりに永遠に真実を追究し続けるためのシステムを残しておく。


14時間前に、200単位のジェノバ細胞体を上腕静脈に注入した。
体調の変化を自覚している。
私は癌細胞になる。

自我意識が希薄化しても、このプログラムはネット上で情報を解析し続けるだろう。

この期に及んで、私は奇妙な感慨にうたれている。
私は息子を愛しているのだろうか。
おそらくそうだろう。
愛はプログラムにすぎないが、私もただの人間にすぎない。
セフィロスだけが人を超えることができるのならばそれもよい。
彼は確実に私の一部なのだから。

ゲノムの罠だ。だが、それもよいと思える。


◆地下研究室◆